サイエンスクラブGAPメンバー2名が,北見工業大学マテリアル工学科の宇都正幸准教授にインタヴューをしました。
常呂川に対する宇都先生の思いを感じてください。
――― 先生にとっての理想の常呂川とはどのような川ですか?
『理想の常呂川』ですか... 僕は釣りが好きなので、個人的には魚などの生物が多く棲む川であってほしいと思っています。
一般的には工事などで人間の手が加わると生物が棲みにくくなると言われていますが、木がうっそうと茂る支流にも人間によって完全に管理されている本流にも魚は泳いでいます。
生物たちがいきいきと生活できる川であり続け、『川に棲む生物たちとそこで遊ばせてもらう自分』という関係がずっと続いてくれたらいいなと思います。
また,常呂川がこれからも楽しい川であるためには川を守らなければならないと考えています。
支流には酪農などの周辺地域の産業が、本流には市街地を流れた生活排水が、大きな影響を与えているところもあります。
僕らが常呂川の水を使わせてもらうからには、川に水を返すときは完全に元の状態に戻すことが理想ですよね。
それには莫大なお金がかかりますし効率的ではありませんから完璧に元に戻すのはとても難しいでしょう。
だからこそ水を使っている一人ひとりが高い意識を持って生活することが大切なのです。
――― なるほど。では『高い意識を持って生活する』というと、私たちは何をどのように心がけるべきですか?
まず、『心がけるべき』と言うと義務感が生まれてしまって常呂川や環境に対して『させられている』という感じが強くなってしまいますから、違う風に考えた方がいいですね。
水や常呂川を意識しないということはつまり無関心だということです。だから川を痛めつける行為を平気で行ったりしてしまうわけです。
川に望むことは人それぞれ違うかもしれませんが、まずは川を好きになってもらいたいです。だれも自分の好きな物を壊したり傷つけたりはしませんから。
好きという積極的な気持ちではなくともせめて常呂川が僕ら全員にとって大切な川であることを知って、無視したり嫌いになったりはしないでほしいですね。
ずっと昔から常呂川の周りには人が住んでいて、ある程度川に汚染物質を流し込んでいました。
汚染物質の処理技術は今ほど発達していなかったはずですが、人口も多くなかったので自然の許容量の範囲内に収まっていたのです。
それから徐々にたくさんの人が常呂川流域に住むようになり、それに伴って農業や畜産業なども常呂川流域に集中したため、常呂川に流れ込む汚染物質の量と汚染源自体の数が増えていきました。
そして流れ込む汚染物質の量が自然の許容量を超えてしまい、水質が悪化していくようになってしまったのです。
人間が自然な状態とは異なる状態の常呂川にしてしまった分は人間が責任を持って処理しなければなりませんが、僕らの命は農業や畜産業に支えられていて、それらなしでは生きていけませんよね。
だから環境と産業がお互いに良いバランスで存在できるように考えなくてはならないと思います。
――― ありがとうございます。それでは最後に常呂川や環境についての思いをお聞かせください。
『思い』... そうですね、まず僕にとっては家族が一番大切なので、川に限らず気温の変動幅など周りの環境が今まで経験してきた状況から大きく外れないで、人が住める状況で残ってほしいですね。
それから、自然のサイクルの許容範囲内で人間の生活が営まれるといいなと思います。
例えば、海から魚をたくさん捕ってきて全て北見で消費すると、元々その土地になかったものが大量に捨てられてしまって環境に大きな負荷をかけることになります。
そういったことを極力少なくするためにも食料の地産地消は大切ですよね。地球上で人間はあまりにも増えすぎてしまって、人間の活動によって排出されたものを人間社会の中で処理しきれなくなってしまっています。地球温暖化がその例の1つです。
今後はより高度な技術を使うなどして、人間が環境にこれ以上負荷をかけないようにしなければならないと思います。
ほかにもこれからの社会のことも気がかりです。
このままでは20年30年後の北見市はどうなってしまうでしょうか。
北見市は周りの市町村を合併したことで市としての人口は減少傾向にあります。
合併前は北見市を離れる人と周辺から北見市に移住する人の数がおおよそ一致していましたが、合併してからは新しく北見市民になる人が激減してしまいましたからね。
人口減少による税収の減少は公共施設や公的サービスに使える費用の減少に直結するので、もしかすると北見市の『これまでの日常』が崩壊してしまうかもしれません。
でも未来がどうなるかは今の子どもたち次第ですからね、明るい未来を想像して頑張ってほしいです。
学生のうちに色々なところへ行って、色々なものを見て、多くの知識を身につけて、物事を様々な角度から考えられるようになることが大切ですよ。
これで最後にしますが、生物たちはとてもしたたかで強く生きています。
だから種が絶滅するというのは本当に珍しいことのはずなのです。
人間は『絶滅の危機に瀕している在来種を守るため』として外から持ち込まれて広域に繁殖した外来種を駆除しようとしていますが、持ち込まれるということ自体も人間を利用した外来種の生息範囲域拡大活動の一環で、それを阻害する人間の行為はいきすぎたところがあるとも言えます。
もちろん生態系に大きな変化をもたらしてしまったのは人間の責任ですから対処しなければなりません。
しかし先ほどもお話したように生物たちはとてもしたたかなので、ある程度の年月が経てば爆発的に広がった外来種を餌とする動物も登場したり、全く新しい生態系が生まれたりして、変化に柔軟に対応しながら生態系は安定していくと思うのです。
だから人間が干渉する必要はないとも考えられるのではないかな、と。こうして1つの考えにとらわれることなく多面的に考えるというのがとっても大切なのですよ。
僕らは大きな生物から小さな生物まで、多くの生物が暮らすままの地球で生きています。
今ある自然を維持していきたいとは思いながらも、少しずつ変わっていく自然を見ながら自分たちは地球の中でどのように存在していたら良いかを常に考えながら生きていかなくてはならないのだと思っています。
――― ありがとうございました。私たちも様々な角度から考えることを心がけて,身近な自然を大切にしていきたいと思います。
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